西-南極の氷床崩壊で世界の海面が3.3m上昇する恐れがある
GEO-5:地球環境概観 第5次報告書の見解
南極大陸の東側では、氷床の多くは陸の上にあるが、西側(注1)では、氷床が海中にもぐっていて、氷床の底のほとんどが海面より1,000 メートル以上も下にある。また、南極海域は世界の海洋よりも急激に暖まっている。そのため、西-南極の氷床の下部は、暖かい海水によって解かされ、崩壊の恐れが出ている。西南極の氷河全体が崩壊すると、世界の海面が3.3m上昇すると予想されている(注2)。
GEO-5以外においても、Science News誌は、スウェイツ氷河のみが崩壊した場合は世界の海面が65cm上昇し、NASAは、スウェイツ氷河およびその周囲の氷河が崩壊した場合には海面が2.4m上昇すると伝えている。さらに、サイエンス誌は、GEO-5と同様に、西南極全体の崩壊で3.3m上昇するという記事を載せている。
この動画の南極大陸内での位置は、次の南極写真の左中央の緑の四角い枠
で囲まれたエリアで、その右横の赤い点線で囲まれたエリアが、スウェイツ氷河である。
GEO-5以外においても、Science News誌は、スウェイツ氷河のみが崩壊した場合は世界の海面が65cm上昇し、NASAは、スウェイツ氷河およびその周囲の氷河が崩壊した場合には海面が2.4m上昇すると伝えている。さらに、サイエンス誌は、GEO-5と同様に、西南極全体の崩壊で3.3m上昇するという記事を載せている。
この動画の南極大陸内での位置は、次の南極写真の左中央の緑の四角い枠

- 注釈:
- 南極横断山脈より西側の部分。後記の「南極の断面図」を参照。
- GEO-5上巻 P.200
氷床の高さが急激に低下
茶色に着色したエリアの氷河が急速に流れていて氷床の標高が30m以上(25年で)低下。
出典:NASA Scientific Visualization Studio、一部改変
出典:NASA Scientific Visualization Studio
一部改変
氷河の流出があと数年で急拡大
(上の南極写真の緑の四角枠
内の様子)
↓ スウェイツ氷河流出部と海面下の山

↓ スウェイツ氷河流出部と海面下の山
著作者:欧州宇宙機関(ESA)の人工衛星Sentinel-1 の情報から筆者が作成
巨大な棚氷であるTEIS(上の画像左、約30km×20kmの四角形の棚氷で厚さ300m以上、東京23区ほどの面積)が切り離されると、TEISによって抑えられていたスウェイツ氷河の東部(図の上側)からも流出するようになり、氷床の流出が一気に加速してしまう。TEISは海面下の山に突き当たった後、そこに留まっていたが(注1)、徐々にズレ動き、わずかに加速しているのが見て取れ、あと数年で南極大陸から切り離され、海洋へ流出しようとしている(注2)。TEISを留めている海面下の山の輪郭(水深320mより浅い部分)は、この動画中で示す青色の線である(注3)。
動画中の左下に印された小さな橙色の「+」マーク(注4)は、人工衛星からの連続して変化していく静止画から、氷床が移動する動画を作成する際の基準点になるものである。バラバラと崩壊する小さなカケラは、それぞれが 2~5km² ほどの大きさがある。スウェイツ氷河の面積は約19万km²、日本の半分ほどの大きさで、海面より上の標高が1000~2000mもあり(次の断面図を参照)、先頭ページで述べたように、スウェイツ氷河のみの崩壊で世界の海水面は65cm上昇する。
動画中の左下に印された小さな橙色の「+」マーク(注4)は、人工衛星からの連続して変化していく静止画から、氷床が移動する動画を作成する際の基準点になるものである。バラバラと崩壊する小さなカケラは、それぞれが 2~5km² ほどの大きさがある。スウェイツ氷河の面積は約19万km²、日本の半分ほどの大きさで、海面より上の標高が1000~2000mもあり(次の断面図を参照)、先頭ページで述べたように、スウェイツ氷河のみの崩壊で世界の海水面は65cm上昇する。
- 注釈:
- 欧州地球科学連合 (EGU)の記事
- サイエンス誌 (2021年12月13日)
- NASAのBedMachineAntarcticaの海底データより筆者が作成。作成方法等を日本雪氷学会に投稿作業中。
- 人工衛星から得た画像内に南緯74°50'西経106°20'の地点を筆者が特定し投影したもの。
西南極の氷床の下部は海面下にある

著作者:NASAのMEaSUREs BedMachine Antarctica 情報を基に筆者が作成。
著作者:NASAのMEaSUREs Bed-
Machine Antarcticaを基に筆者が作成。
NASAの衛星データを基に、南極大陸を右上の略図のWとEの2地点を結んだ線で切った断面図である。西南極の氷床の下部のほとんどが、海中に没しており、その底は海面下1,000~2,000mの海底基盤上にあり、また氷床の上部には1,000~2,000mの厚みの氷がある。横軸(距離)は、縦軸(標高)に対して約170分の1に縮小表示。
南極大陸から氷床を取り除いた状態

出典:NASA Scientific Visualization Studio、一部改変
出典:NASA Scientific Visualization Studio
一部改変
上図のスウェイツ氷河の部分を拡大

出典: 同上
白い点線で囲んだエリアがスウェイツ氷河である。図の青色は海面下であることを意味し、スウェイツ氷河のほぼ全域が海面下1,000~2,000mであることが分かる。このような形状の氷河であるために、崩壊すれば、それによって支えられている周囲の氷河も、引き込まれて連鎖的に崩壊していくと考えられている。そのためこの氷河は、世界中で最も危険な氷河で「終末の氷河」とも呼ばれるようになっている。
全球での海洋大循環 ーー 暖かい海水が南極を周回している
Credit: Avsa (CC BY-SA 3.0 [https://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0/deed.en]), 2009. The global conveyor belt on a continuous-ocean map. Via Wikimedia Commons.
Modified to Japanese by Masuo Aoyama on Jan. 22, 2023.
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南極大陸の周りを周回する海流は、南極環流と呼ばれ、そこに大西洋、インド洋、太平洋をめぐる3つの海流がつながっている。この南極還流は、地球上で最大の海流で、全球の海洋深層循環(または熱塩循環)の中枢である(注1)。この図のように、全球をめぐる海洋大循環によって、地球上の海洋の熱が、南極大陸の周囲を周回している。図中の青い流れは冷たい深層流で、赤い流れは暖かい表層流である。北大西洋および南極海北部の2カ所で、表層流が沈み込んで深層水が形成されている。
- 注釈:
- 南極環流, ウィキペディア
南極を取り囲む周極深層水 (CDW) ーー その一部が氷床の前面に流入

Credit: Jean-Baptiste Sallée (CC BY-SA 4.0 [https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.en]). Temperature trends in different layers of the Southern Ocean, 2019. Via Wikimedia Commons.
Modified to Japanese and the unnecessary parts were deleted by Masuo Aoyama on Jan. 22, 2023.
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Credit: Jean-Baptiste Sallée (CC BY-SA 4.0 [https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.en]). Temperature trends in different layers of the Southern Ocean, 2019. Via Wikimedia Commons.
Modified to Japanese and the unnecessary parts were deleted by Masuo Aoyama on Jan. 22, 2023.
南極大陸の大陸棚の周囲には深さ4,000mもの海が広がっていて(上記「南極の断面図」も参照)、前述した南極環流が周回している。この南極環流の比較的暖かい周極深層水(CDW:circumpolar deep waters)の一部が、南極大陸棚の水深約500mの周縁部(上記「南極の断面図」も参照)を超えて、スウェイツ氷河の前面に流れ込んでいる(注1)。周極深層水(CDW)の水温は1〜2°C(注2)(または1~1.5°C:(注3))で、氷床が融解する温度は-2℃程度であるため(注4,注3)、このスウェイツ氷河の全面に流れ込んでいる深層水は氷床が融解する温度より3.3~3.5℃も暖かく(注5)、氷床や棚氷を急速に解かしている。
- 注釈:
- Jean-Baptiste Sallée. 2018. Southern Ocean Warming. Oceanography online 31(2): 52-62
- Circumpolar deep water. Wikipedia.
- 中山 佳洋. 2020. 南極域における観測データの再現性の高い数値モデルの開発と海洋棚氷相互作用の研究 海の研究 (Oceanography in Japan), 29 (6): 233-244
- 海氷の融解温度は-1.8°C(海氷、ウィキペディア)であるが、氷床下部では高水圧となるため氷床の融解温度はさらに低くなる。
- Bethan Davies. 2021. Changes to Circumpolar Deep Water. AntarcticGlaciers.org.
氷床崩壊のメカニズム
氷床が崩壊するメカニズムについて、次回、さらに詳しく説明する。